科研費プロジェクト: 超伝導工学・大規模数値計算・データ科学で解明する宇宙最初期の重元素生成過程

Sub/millimeter Line Intensity Mapping - Terahertz Integral Field Units with Universal Nanotechnology (SUBLIME-TIFUUN)

本研究の背景

宇宙における隠された星形成活動宇宙における星生成活動が、138億年の歴史 の中で、いかに変化してきたか、また、その変遷を司る物理過程は何か、を理 解することは、星の中で生成され私たちの世界と生命を構成するに至った元素 や物質の起源を知るために極めて重要である。今や赤方偏移が10を超える初期 宇宙での銀河の候補がハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズウェブ宇宙望遠鏡によ る可視光から中間赤外線での観測により見出され、研究できる時代となった。 一方、重元素からなる固体微粒子(ダスト)に隠された星生成活動を探るために は、アルマをはじめとするサブミリ波帯での観測が鍵となる。現在までのとこ ろ、個々に検出可能な明るい銀河の詳細な観測に基づく研究は劇的に進展して いる。しかし、より暗く、より多数存在する銀河、すなわち、より一般的・代 表的な銀河において、こうしたダストに隠された星生成活動を広く探ることは、 アルマをもってしても容易ではないことが明らかになってきた。このため、宇 宙におけるダストに隠された星生成活動の重要性について、観測的な決着はい まだについていない。

本研究の目的と意義

サブミリ波輝線強度マッピングで迫る重元素の生成集積過程と暗黑物質この解 決の決定打と期待されているのが、「輝線強度マッピング」と呼ばれる手法に 基づく、ミリ波サブミリ波帯での広域分光撮像観測である。この手法では、個々 の銀河を分解するのではなく、空間方向・奥行き (赤方偏移)方向に平均化し た銀河からのスペクトル線の放射エネルギーを測定することにより、個別には 検出が困難な、暗い銀河、すなわち、その時代における一般的で大多数を占め る銀河の情報を、スペクトル線強度の揺らぎ (パワースペクトル) として得る ことが出来る。本研究は、宇宙最初の約20億年 (赤方偏移が約4から8の時代) の銀河における炭素イオンからの [C II] 158$\mu$m 輝線に着目した輝線強度 マッピングを行う。その実現のため、大規模化に適した超伝導集積分光技術に 基づく分光撮像カメラTIFUUNの開発と、その真価を十分に引き出すためのデー タ科学を駆使した観測・解析手法の開発も行う。サブミリ波望遠鏡ASTEでの大 規模観測により、宇宙最初の20億年における隠された星生成活動の全貌を明ら かにすると共に、炭素をはじめとする重元素が、宇宙のいつの時代にどの程度 集積されてきたか、明らかにする。提案する超伝導検出器技術とデータ科学的 手法との融合によりもたらされる、より広く高感度な次世代輝線強度マッピン グ観測は、将来的には、酸素イオン [O III] 88$\mu$m輝線を活用して、さら に初期 (宇宙再電離期より以前) の宇宙への観測的な手がかりを与えることに もつなる。また、高赤方偏移宇宙における銀河の大域的な分布を探ることで、 暗黑物質モデルや初期宇宙物理に新たな制限を与えるなど、宇宙論の重要課題 に迫ることもできると期待されている。